横尾忠則さん画集「タマ、帰っておいで」感想文。霊猫誕生。

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横尾忠則さんが愛猫を描いた画集「タマ、帰っておいで」の鑑賞感想文。上の写真はタマのお気に入りの場所の一つだったという紙袋と。

画集の表紙の「タマ」の絵を観た瞬間に一目惚れし、あっ、これは自分の家に来たがっているヤツだ!と勝手に思い込んでしまったのです。横尾さんのオフィシャルウェブサイトから注文すると、直筆のサインをしていただけるとのことで、ブログでのペンネーム、「ねこじゃら誌」でサインをしていただきました。ページを開くと、TAMA&yokooの連名サイン。これはうれしい! 横尾さん単独よりもうれしい!

2014年に天に召されたタマが描かれた91点の作品集。ほとんどの絵が別れの後に描かれています。キャンバスには絵の具と一緒に愛情が塗られていて、横尾さんとタマとが過ごした日々が時空を越えて伝わってくるようでした。

「この絵はアートではない。猫への愛を描いた」との横尾さんの言葉どおり、新たなる創造への挑戦といった絵画集ではありません。しかし無防備な状態で描いたパーソナルな作品であるからこその新境地なのではないかとも感じました。

いや、そんな理屈抜きにして、ページをめくるたびにタマへの思いが伝わってきて、こちらの胸の中にもさまざまな感情がこみあげ、自分がかつて飼っていた猫たちのことまで思い出しました。

英語のタイトルは「REQUIEM for TAMA」。レクイエムを日本語に訳すと、鎮魂歌。横尾さんがタマを鎮魂しているのではなく、タマが横尾さんを鎮魂しているような気すらしてきました。

タマという名前、猫にはよくありますが、本名は「タマゴ」で略称「タマ」とのこと。

箱に入る。袋に入る。膝に乗る。本の上で顔や手を洗う。陽だまりの中でたたずむ。タンスに飛びつく。雪景色を眺める。

猫との日常がリアルに伝わってくると同時に、猫の霊性みたいなものまでもが見事に描写されていると感じました。猫の霊性と画家の本能が共鳴しあっているような。タマに宿っている肉体を超えた何かが静かにこちらを観ているような。

日付入りの日記風の文章も挿入されていて、簡潔でありながら味わい深く、絵の道標のような役割も果たしています。印象的だったのは横尾さんの家へ来訪したオノヨーコさんとのこんなやりとり。

「アート作品にするのではなく猫への愛を描いた」

「それこそアートじゃない!」

桜の花びらの道を歩くタマの姿はまるで予兆のよう。最後の2点の絵は涙が止まりませんでした。別れの翌朝に亡骸をスケッチするって、横尾さんはやはり天性の画家ですね。深い哀しみの中で描かれた「タマ」。でもずっと眺めているうちに、こんな想念が頭をよぎりました。

これは生の不在ではなくて、「タマゴ」が孵化した瞬間であり、霊猫タマの誕生の瞬間なのではないか。タマは本当は「タマシイ」の略なのかもしれない。そんな妄想のスイッチが入ってしまったのです。

リモコンが大好きとのことなので隣に

そして何よりも強く感じたのはこんなことでした。

タマはとっくに帰ってきていたんだね。いつでもそこにいたんだね。

これはタマの新たな誕生を描いた画集。

大切な宝物がひとつ増えました。

Thank you,TAMA & yokoo

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